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東京地方裁判所 平成10年(行ウ)26号 判決 2000年2月16日

原告

宮代侑子

原告

祝玖美子

原告

西片三栄子

原告

西片眞吾

右原告ら訴訟代理人弁護士

遠藤晃

高野栄子

被告

四谷税務署長 吉原利弘

右指定代理人

加藤裕

須藤哲右

伊藤浩視

屋敷一男

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告らに対し、それぞれ平成七年三月一七日付けでした、平成五年二月二日相続開始に係る原告らの相続税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分(ただし、いずれも平成七年一二月一日付けの原告らに対する減額更正処分後のもの)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、平成五年二月二日に死亡した被相続人西片武治の相続人である原告らが、右相続開始に係る原告らの相続税の申告に係る財産のうち、東京都新宿区所在の土地の評価額を過大に申告したとして、被告に対し、更正の請求を行ったところ、被告から更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたことから、右各通知処分(ただし、いずれも減額更正処分後のもの)の取消しを求めている事案である。

一  法律の定め等

(一)  相続税法の定め等

相続税法によれば、相続により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によるものとされている(相続税法二二条)。

そして、右の評価に関して、「財産評価基本通達」(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達(平成五年六月二三日付け課評二―七・課資二―一五六による改正前のもの)、以下「評価通達」という。)が発出されているが、評価通達においては、相続により取得した土地の価額については、その土地の課税時期における現況によって判定される地目の別に、課税時期における実際の面積によって、評価することとされている(評価通達七項、八項)。

(二)  宅地の評価について

(1) 右評価通達によれば、相続により取得した宅地の価額は、利用の単位となっている一区画の宅地ごとに評価することとされており(評価通達一〇項)、原則としてその宅地の面する路線に付された路線価を基とし、所要の補正を行い計算した金額により評価する方式(評価通達一三項)又は倍率方式により評価することとされている(評価通達一一項)。

(2) 路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している不特定多数の者の通行の用に供されている道路ごとに設定される(評価通達一四項)。

右路線価の設定に当たっては、売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに価額を設定する。

(3) 宅地の評価額は、右路線価を基として、その宅地の奥行距離に応じて「財産評価基本通達一五(奥行価格補正)の定めによる奥行価格補正率等の適用について」(平成四年八月二七日付け課評二―一〇・課資一―一五)別表一に定められた補正率を乗じて計算した価額(評価通達一五項)に、その宅地が面する路線の状況に応じて評価通達付表二(側方路線影響加算率表)、評価通達付表三(二方路線影響加算率表)等を適用して計算した金額(評価通達一六ないし一八項)の合計額を一平方メートル当たりの価額として計算される。

(4) そして、評価すべき宅地が不整形地(三角形も含む。)、無道路地、間口が狭小な宅地等、がけ地等の評価は、その形状等に応じて、<1>不整形地補正(右(3)の価額から、一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認められる金額を控除する。あるいは、「不整形地補正率について」(平成四年三月三日付け資産評価企画官情報、以下「本件情報」という。)別表1及び別表2に定められた不整形地補正率を乗じて計算する。)、<2>無道路地補正(実際に利用している路線に接する宅地と合わせて評価した価額から無道路地以外の宅地の価額に相当する価額を控除した価額を基として、一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認められる金額を控除する。)、<3>間口狭小補正及び奥行長大補正(奥行価格補正後の価額に、評価通達付表四及び付表五に定めた補正率を乗じて計算する。)、<4>がけ地等補正(評価通達付表六に定めた補正率を乗じて計算する。)を行い、算出された価額に面積を乗じて計算することとされている(評価通達二〇項)。

二  前提となる事実(当事者間に争いがない事実等)

1  本件訴えに至る経緯

(一) 原告ら及び訴外西片幸子(以下「本件相続人ら」という。)は、平成五年二月二日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した被相続人西片武治(以下「亡武治」という。)の相続人である。

(二) 本件相続人らは、亡武治に係る相続(以下「本件相続」という。)について、同年一〇月一八日、相続税の確定申告を行った。原告ら各人に係る右申告の内容は、別紙一ないし四の各「本件課税処分等の経緯」の期限内申告欄記載のとおりである。

(三) 本件相続人らは、平成六年七月五日、被告に対し、本件相続に係る相続財産を構成する東京都新宿区三栄町二三番七 宅地 六〇三・五〇平方メートル(以下「本件土地」という。)を時価評価したところ、申告書記載の評価額を下回ったとして、更正の請求をした。

原告ら各人に係る右更正の請求の内容は、別紙一ないし四の各「本件課税処分等の経緯」の更正の請求欄記載のとおりである。

(四) 被告は、平成七年三月一七日、本件土地は、相続税評価額が時価を上回っているとは認められないとして、本件相続人らに対し、それぞれ更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った(以下「本件各通知処分」という。)。

(五) 本件相続人らは、同年五月三日、本件各通知処分を不服として、被告に対し、異議申立てをしたが、被告が、右異議申立てに対し、異議申立てをした日の翌日から起算して三箇月を経過しても決定を行わなかったことから、本件相続人らは、同年九月四日、国税不服審判所長に対し、審査請求を行った。

原告ら各人に係る右異議申立て及び審査請求の内容は、別紙一ないし四の各「本件課税処分等の経緯」の異議申立て欄及び審査請求欄記載のとおりである。

(六) 被告は、同年一二月一日、原告らに対し、それぞれ減額更正処分を行った。

原告らに係る右各減額更正処分の内容は、別紙一ないし四の各「本件課税処分等の経緯」の減額更正欄記載のとおりである。

(七) 国税不服審判所長は、平成九年一一月一〇日、訴外西片幸子に係る審査請求を却下し、原告らに係る審査請求を棄却する旨の裁決を行った。

2  本件土地の状況

本件土地は、南北に延びる幅員約五・七メートルの舗装区道の東側に位置し、間口約二・一メートル、奥行き約一七メートルの路地状部分を有する袋地状の画地である。有効宅地部分の形状は、路地状部分に接続する部分(北側)の奥行きが約三三メートル、反対側(南側)が約三一メートル、幅約一八メートルのほぼ台形の画地であり、地積は六〇三・五〇平方メートルであって、亡武治の持分は一〇分の九であった。

本件土地の存する地域は、第二種住居専用地域で、建ぺい率は六〇パーセント、容積率は三〇〇パーセントであり、本件相続開始日現在の利用状況は、木造二階建居宅の敷地として利用されていた。

また、本件土地は、路地状部分の長さが約一七メートルであるにもかかわらず、その幅員が約二・一メートルしかないため、本件相続開始日現在は、東京都建築安全条例(昭和二五年東京都条例第八九号。ただし、平成五年三月三一日付け改正前のものをいい、以下「建築安全条例」という。)三条の定める接道義務を充足しておらず、そのままでは、その地上に建物を新築することができない土地であり、右接道義務を充足するためには、路地状部分の幅員が三メートル以上である必要があった。

三1  被告の主張する本件各通知処分の根拠

被告が主張する本件相続に係る本件相続人らの相続税の課税価格及び納付すべき相続税の額は、別表1及び別表2記載のとおりであり、その内訳は次のとおりである。

なお、後記のとおり、本件において当事者間で争いがあるのは、本件相続土地の評価の点のみであり、その他の相続により取得した財産の範囲、その価額の評価等相続税額算出の基礎となるべき事項については当事者間に争いはなく、また、納付すべき税額の算出過程についても当事者間に争いはない。

(一) 課税価格の合計額(別表1の符号14の「合計額」欄の金額)

五億一八五七万四〇〇〇円

右金額は、次の(1)記載の金額から、次の(2)記載の金額を控除した後の金額に次の(3)記載の価額を加算した金額(ただし、国税通則法一一八条一項の規定により、亡武治の相続人である本件相続人らにつき、各人ごとに課税価格の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

(1) 相続により取得した財産の価額(別表1の符号7の「合計額」欄の金額)

五億二三四四万八七四五円

右金額は、本件相続人らが相続により取得した財産の総額であり、その内訳は次のとおりである。

ア 土地の価額(別表1の符号1の「合計額」欄の金額)

三億八八五〇万三八三七円

右金額の明細は別表3―1記載のとおりであり、本件相続の対象となる土地は、亡武治の所有していた本件土地の持分一〇分の九(以下「本件相続土地」という。)のみである。

なお、右は、平成七年一二月一日付けの各更正処分により一部取り消された後のものである。

イ 家屋の価額(別表1の符号2の「合計額」欄の金額)

一六三万八一八〇円(争いがない)

ウ 有価証券等の価額(別表1の符号3の「合計額」欄の金額)

七三八五万二三三五円(争いがない)

右金額の内訳は別表4記載のとおりである。

エ 現金、預貯金等の額(別表1の符号4の「合計額」欄の金額)

二〇七五万七〇八三円(争いがない)

右金額の内訳は別表5記載のとおりである。

オ 家庭用財産の価額(別表1の符号5の「合計額」欄の金額)

五〇万〇〇〇〇円(争いがない)

カ その他の財産の価額(別表1の符号6の「合計額」欄の金額)

三八一九万七三一〇円(争いがない)

右金額の内訳は別表6記載のとおりである。

(2) 控除すべき債務等の額(別表1の符号11の「合計額」欄の金額)

八二七万二五〇〇円(争いがない)

右金額は、相続税法一三条及び一四条の規定に基づき、本件相続人らが相続により取得した財産の価額の合計額から控除すべき債務等の合計額である。

(3) 三年以内の贈与加算額(別表1の符号13の「合計欄」の金額)

三四〇万〇〇〇〇円(争いがない)

(二) 本件相続人らの納付すべき相続税の額(別表1の符号17の「合計額」欄の金額)

六一三二万一五〇〇円

右金額は、相続税法一五条ないし一七条、一九条及び一九条の二(一五条、一六条については、いずれも平成四年法律第一六号による改正後のもので平成六年法律第二三号による改正前のもの。一九条及び一九条の二については、平成六年法律第二三号による改正前のもの。以下同じ。)の各規定により、次のとおり算定したものである。

(1) 本件相続人らの課税価格の合計額(別表2の符号1の「合計額」欄の金額)

五億一八五七万四〇〇〇円

右金額は、前記(一)記載の金額である。

(2) 遺産に係る基礎控除額(別表2の符号2の「合計額」欄の金額)

九五五〇万〇〇〇〇円(争いがない)

右金額は、相続税の課税価格の合計額から控除すべき基礎控除額であり、相続税法一五条の規定により、四八〇〇万円と、九五〇万円に本件相続人らの人数である五を乗じて算出した四七五〇万円との合計額である。

(3) 課税遺産総額(別表2の符号3の「合計額」欄の金額)

四億二三〇七万四〇〇〇円

右金額は、右(1)の金額から右(2)の金額を控除した金額である。

(4) 法定相続分に応ずる取得金額(別表2の符号5の各金額)

ア 原告宮代侑子(法定相続分八分の一) 五二八八万四〇〇〇円

イ 原告祝玖美子(法定相続分八分の一) 五二八八万四〇〇〇円

ウ 原告西片三栄子(法定相続分八分の一) 五二八八万四〇〇〇円

エ 原告西片眞吾(法定相続分八分の一) 五二八八万四〇〇〇円

オ 訴外西片幸子(法定相続分二分の一) 二億一一五三万七〇〇〇円

右各金額は、相続税法一六条の規定により、本件相続人らが右(3)の金額を法定相続分に応じて取得したものとした場合の取得金額であり、右(3)の金額に本件相続人らの法定相続分をそれぞれ乗じて算出した金額(国税通則法一一八条一項の規定により本件相続人ら各人ごとに一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(5) 相続税の総額(別表2の符号6の「合計額」欄の金額)

一億二一九七万九三〇〇円

右金額は、右(4)の各金額に相続税法一六条に規定する税率を適用して算出した金額の合計額(一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(6) 原告らの納付すべき相続税の額(別表1の符号17の各金額)

ア 原告宮代侑子 一六七八万四四〇〇円

イ 原告祝玖美子 一六八九万九八〇〇円

ウ 原告西片三栄子 二一四九万七二〇〇円

エ 原告西片眞吾 六一四万〇一〇〇円

右金額は、相続税法一七条の規定により、右(5)の金額に、原告らに係る課税価格が本件相続人らに係る課税価格の合計額のうちに占める割合(別表2の符号7の各割合)を乗じて算出した金額(国税通則法一一九条一項の規定により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

2  本件各通知処分の前提となった本件相続土地の評価

被告が本件各通知処分の前提とした本件相続土地の価額の評価は次のとおりである。

(一) 本件土地が面する路線に付設された平成五年分の正面路線価(以下「本件路線価」という。)は、一平方メートル当たり一三二万円であり、地区区分は普通住宅地区である。

(二) 宅地の価額は、路線(街路)からの奥行距離の長短により、価額が異なることから、奥行価格補正を行うこととされ(評価通達一五項)、奥行価格補正率は、原則として、正面路線に対し垂線的な奥行距離により、評価通達付表一の該当する奥行距離欄と該当する地区区分欄の交差する数値により決定される。

本件土地の場合は、北側の奥行距離は五〇メートル、南側の奥行距離は四八メートルとそれぞれ異なるため、両距離の平均である四九メートルが奥行距離となるところ、本件相続開始日は、平成五年二月二日であることから、「財産評価基本通達一五(奥行価格補正)の定めによる奥行価格補正率等の適用について」(平成四年八月二七日付け課評二―一〇・課資一―一五)別表一によって、奥行価格補正率は〇・八九となる。

(三) 不整形地補正は、<1>その不整形の程度、<2>位置、<3>地積の大小に応じ、不整形地を三の類型に分類して合理的と認められる評価方法を示し、その近傍の宅地との均衡を考慮して、一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除して補正を行うこととしている。そして、右の範囲内において行う斟酌については、課税実務上、不整形地評価の公平・簡便化の観点から、不整形地の評価上勘案すべき各要素を盛り込んだ補正率が設けられ(本件情報)、これを評価通達二〇項(1)のイからハまでに掲げる価額に乗じて不整形地の価額を算定することができることとされている。

(四)(1) そして、本件情報によれば、本件土地のような形状の土地については、<1>蔭地割合方式による不整形地補正率を適用して評価する方法、<2>間口狭小補正率と奥行長大補正率を適用して評価する方法のいずれかを選択して評価することができることとされている。

(2) <1>による場合

本件土地の地区区分及び地積区分は、「普通住宅地区B」である。本件土地を含む想定整形地の面積は、九〇〇平方メートル(間口一八メートル、奥行五〇メートルとして計算した。)、本件土地の面積は、六〇三・五〇平方メートルであることから、蔭地割合は、三二・九パーセントとなる。蔭地割合=(想定整形地の地積―本件土地の地積)÷想定整形地の地積

蔭地割合及び地区区分並びに地積区分から、本件土地の蔭地割合方式による不整形地補正率は、〇・九六となる。

ただし、間口狭小補正率の適用がある場合には、不整形地補正率の下限七〇パーセントの範囲内で、右で求めた補正率に間口狭小補正率を乗じて算出した数値を不整形地補正率とすることができる。本件土地の間口距離二・一メートルの場合の間口狭小補正率は、〇・九〇であり、これを右に乗じた〇・八六四が不整形地補正率となる。

(3) <2>による場合

本件土地の間口狭小補正率は、右のとおり、〇・九〇である。

また、本件土地の奥行長大補正率は、間口距離二・一メートル、平均奥行距離が四九メートルであり、間口距離に対する奥行距離の割合は約二三・三となるから、〇・九〇となる。

したがって、右各補正率を乗じて算出した〇・八一が不整形地補正率となる。

(4) (2)及び(3)を比較すると、右(3)の計算による不整形地補正率〇・八一を選択した方が納税者に有利となることから、本件土地の不整形地補正率は、〇・八一となる。

(五) なお、本件土地は、その形状に基因して、建築安全条例三条の接道義務を充足していないために、そのままでは建物の新築ができないことから、不整形地補正の範囲内において、建物の新築ができない場合の斟酌として、無道路地の評価(評価通達二〇項(2))に準じて、接道義務を充足するために必要な土地(以下「不足土地」という。)に相当する評価額が控除されており、本件土地に係る不足土地の面積は一五・三〇平方メートルである

(六) 以上より、本件相続土地の価額は、別表3―2<1>記載のとおり、本件路線価の金額一三二万円に〇・八九(奥行価格補正率)、〇・八一(不整形地補正率)、六〇三・五〇(地積)及び〇・九(持分割合)をそれぞれ乗じて計算した金額である五億一六八五万五〇二二円から、本件路線価の金額一三二万円に一五・三〇(不足土地の面積)と〇・九(持分割合)を乗じて算出した一八一七万六四〇〇円を不足土地に相当する評価額として控除した金額である四億九八六七万八六二二円となる。

(七) そして、本件相続土地は、相続開始の直前において亡武治が居住の用に供していた宅地であることから、租税特別措置法六九条の三(平成六年法律第二二号による改正前のもの)の規定に基づき、本件相続土地のうち二〇〇平方メートルまでの部分については右の金額の一〇〇分の六〇に相当する金額は相続税の課税価格から減額されるから、右規定を適用した後の本件相続土地の価額は、別表3―2記載のとおり、三億八八五〇万三八三七円となる。

四  当事者の主張

(原告らの主張)

1 評価通達の不合理性

本件相続土地の評価上問題となる間口狭小補正と不整形地補正に関する評価通達の各規定は、以下に述べるとおり、準正確性(画一性の要請の範囲内で評価の正確性が確保されているか)、公平性(評価規定相互間に致命的矛盾がないか)、合法性(時価を超えていないか)の三点において、合理性を欠くものであるから、右両規定の存在する評価通達により、本件相続土地の評価を行うことは許されない。

(一) 準正確性の欠缺

(1)ア 建築基準法四三条一項、建築安全条例三条等は、間口が二メートル未満の土地上における建物の建築を禁止している。その結果、合法的に建物を建築することのできない間口二メートル未満の土地の経済価値は当然に大きく下落する。実際、取引市場では、同じく間口が狭い土地であっても、間口が二メートル確保されてない土地はそうでない土地の取引価格の半値ほどであり、大きな差がある。

それにもかかわらず、評価通達においては、間口が二メートルしかない土地が一般の整形地に比べてわずか一割程度しか減額されていない。

間口が二メートル未満の土地は、極めて多数存在しているにもかかわらず、このように接道義務についての考慮が全く欠落している右の間口狭小補正に関する規定は、合理性を欠いている。

イ また、右のような行政的要因を除外して考えたとしても、間口が四メートル未満の土地の利用効率の低下の度合いが同じであるとは考えられないから、この点からも、間口狭小補正に関する規定は、合理性を欠くものというべきである。

ウ 被告は、接道義務を充足しないために、土地上における建物の新築が禁止されるような土地の評価に関しては、不整形地補正の中で、接道義務を充足するために必要な不足土地の購入費用を控除することによって、その評価を行っているから、合理性を失うものではないと主張するが、右のような土地の評価について、被告は、常に不足土地の購入費用を控除する評価を行っているものではなく、ただ、審査請求に及んだ極めて限られた者のみが、初めて右のような不足土地の控除という取扱いを受けることができるにすぎず、課税の公平に著しく反した取扱いがされている。

(2)ア 不整形地補正に関し、評価通達は、評価減の幅を三割の範囲内に抑えている。

しかし、不整形地は極めて多く存在し、新設道路用地買収の残地等劣悪な形状の土地は、むしろ増加傾向にすらある。また、取引市場においては、不整形地であるために、一般の土地に比べて軽く半値以下になってしまう土地が少なくない。評価の基となる路線価が全て整形の土地を前提に付されているのであるから、不整形地補正における減額幅を三割までに制限するという規定には、何らの必然性・合理性はなく、適正な評価を行う上に必要な範囲で、評価減を行うべきである。

イ 被告は、毎年一月一日現在の地価公示価格を発表している国土庁の土地価格比準表(昭和五〇年一月二〇日付け五〇国土地第四号国土庁土地局地価調査課長通達。以下「国土庁の比準表」という。)が定めた不整形地の最大格差が〇・七である点を引用して、評価通達の定める不整形地補正の減価割合が合理的であるというが、右比準表は、国土利用計画法の審査のために作成されたものであり、評価を行う者は従来不動産の評価を一切担当してこなかった審査の担当者であるから、右比準表は、同様に不動産評価の素人による評価の手法である評価通達を参考にして作られたものと考えられる。また、国土利用計画法においては、高めに土地の価格を算定する限り、取引市場との軋轢は生じないとの事情があり、不整形地についての取引は一般会社の取引事例としての指標性も欠いている。

このように、右比準表を例示しても、何ら評価通達の合理性を裏付けるものとはならない。

(3) 以上のとおり、評価通達における間口狭小補正、不整形地補正の各規定はいずれも合理性を欠くものであるが、間口狭小補正率については、補正率表の間口距離欄に二メートル未満の項目を新設すること、間口が二メートル以上であっても条例の定める接道義務を充足していない土地の間口は二メートル未満とみなすこと、不整形地補正率については、三割という上限を撤廃することによれば、評価事務作業量をほとんど変えることなく、画一的で、適正な評価を行うことが可能である。

したがって、このような評価の正確性に欠陥を有している間口狭小補正や不整形地補正の規定は、準正確性の基準に反するというべきである。

(二) 公平性の欠缺

評価通達二五項(4)は、高圧送電線の直下の土地のような区分地上権に準ずる地役権が設定されている場合の承役地について、その制限によって家屋の建築が全くできない承役地の価額は、その土地の借地権割合(最低で一〇〇分の五〇)を控除し、その制限が家屋の構造・用途等に関するだけのものであれば一〇〇分の三〇を控除することとする。

ちなみに東京地区の借地権割合の大半は六割か七割であることから、前者にあっては事実上評価額を六ないし七割減額することとなる。

すなわち、間口狭小補正に関する規定では、建物の建築が可能か否かにつき評価額に全く格差がないが、他方で、区分地上権に準ずる地役権の承役地に関する規定では、建物の建築不可能な場合には五割超という大幅な減額が行われる。

したがって、評価通達の規定間に明かな不均衡・不公平が生じているから、間口狭小補正規定は、公平性の観点からも不合理である。

(三) 合法性の欠缺

平成四年から、路線価は公示価格の八割水準に設定され、評価の安全性に基づく誤差の許容範囲(アローアンス)は、わずか二割しかないこととなった。すなわち評価の画一性の面から、大量に生ずる評価の誤差は、全て二割の範囲に抑えなければならない。

ところが、間口狭小補正や不整形地補正の二つだけでも三割ないし五割の誤差が容易に発生する。

このように恒常的に違法評価が出現する構造となっている評価通達は、最も重要な合法性の基準にも反するものである。

2 本件情報の不合理性

(一) 被告が課税実務上不整形地補正を行う上で適用することとしている蔭地割合方式は、本件情報という形で、国税庁の資産評価企画官が取りまとめたものを各税務署等へ参考のために送付したものにすぎず、評価通達のように規範性を有するものではなく、不整形地補正に関する評価通達の規定は、本件情報によって何ら変更されていない。

もともと、本件情報自体、適用は任意であるとしているのであるから、仮に本件情報が評価通達と同等の規範性があるとしても、この規定を納税者に強制適用することはできない。

それにもかかわらず、被告は、下位規定であり任意規定にすぎないこの蔭地割合方式を本件相続土地の評価を含めて強制している。

このように、被告による評価は、評価通達からかけ離れた、恣意的かつ不合理な評価方式を強いるものであって、極めて不当といわざるを得ない。

(二) また、不整形地補正は、そもそも画一的評価にはなじまないものであるのに、これを画一的に評価することは、かえって評価の公平を害するものである上、本件情報が長大なものとなっていることからすれば、評価の簡素化の観点からも、正当化できるものではない。

(三) さらに、その内容からしても、例示された事例とその不整形地補正の割合をみると、極端に小さな減額しか行われず、また、数値の決定要素が蔭地の面積割合のみであり、蔭地部分がその土地全体のどの部位に位置しているかが全く考慮されないことから、適正な評価が行い得ないものとなっており、合理性を欠くものである。

3 建物の新築が禁止されている土地であることの評価方法の不合理性

(一) 建築安全条例三条により、建物の新築が禁止されている場合の土地評価について、被告は、現実には存在しない不足土地があると仮定した評価を主張するが、評価通達一項(2)によれば、それぞれの財産の現況に応じて評価するとされていることに照らしても、右の被告の評価方法は不合理であり、明らかに評価通達の適用を誤っている。

(二) 仮に右の評価方法を肯定するとしても、評価時点では、不足土地をその所有者から路線価評価額で購入することが確定しておらず、また、現実には買うことのできる確率が極めて低いのであるから、買い進み等を前提とした適正な不足土地の取得費用を見積もり、それを想定評価額から控除すべきであり、不整形地補正の最高限度である三割減が適用されるべきである。

(三) 不整形地補正は、評価対象地の形状に基因する物理的な利用効率の低下を配慮した規定であるから、このような尺度で、法令上の建築制限による減価の程度を測定することは不可能であり、不整形地補正自体もそのようなことを予定していない。

被告は、建築安全条例三条により、建物の新築が禁止されている土地の評価に当たって、不整形地補正によって評価を行っているが、評価通達六項は、土地価格に決定的影響を与える要因に適用すべき規定が評価通達にない場合について、この通達の定めにより難い場合には、国税庁長官の指示を受けて評価すると定めている。

右規定を無視して、行政的要因という異次元の価格形成要因に、恣意的に不整形地補正の規定を適用するという被告の行った評価方法は、明らかに評価通達に違反している。

4 本件相続土地の評価が時価を超過していること

(一) 本件相続土地の評価は、時価を超えないことが必要であるが、不動産鑑定士森田義男の鑑定(以下「本件鑑定評価」という。)によれば、本件土地の時価は二億九四〇〇万円であり、したがって、本件相続土地の価額は二億六四六〇万円とすべきところ、被告主張の評価額は、その二倍に近い水準にある。これは、既に述べた評価通達の、建物の新築が禁止されている土地に対する間口狭小補正、及び不整形地補正の規定の欠陥によるものである。

(二) したがって、被告主張の評価額が時価を超えることは明らかであり、被告の行った本件各通知処分は違法である。

(被告の主張)

1 評価通達に基づく評価の合理性

(一) 間口狭小補正

(1) 画地の価値は、通風、採光、出入の便などのいかんによって左右されるが、それは、画地の路線(街路)に接する部分、すなわち、間口の広狭によって影響される度合が大きく、間口が狭小な宅地等については、宅地としての利用効率が低下しているのであるから、通常規模の間口を有する画地を基として付されている路線価を、その利用効率の低下している程度に応じて減額するために、間口狭小補正率(評価通達付表四)として、利用効率低下、すなわち、価格低下の度合いを計数化している。

そして、間口狭小補正率は、通常、一画地の地積が小規模である繁華街等や、一画地の地積が大規模であるビル街地区や大工場地区では利用効率低下の度合が異なることから、地区別に定められている。

なお、間口狭小補正率を適用するときの間口距離は、原則として、道路と接する部分の距離によることとされている。

右のとおり、間口狭小補正についての定めはいずれも合理性を有している。

(2) 画地調整率等については、「財産評価基本通達」(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達)の制定以降の社会経済情勢の変動に伴い変化した土地取引等の実態に適合するように、平成三年一二月、専門機関に調査を委託して、その意見等を徴した上で改正を行ったものであり、合理性を有する。

評価通達付表四に定める間口狭小補正率は、間口四メートル未満について計数の格差を示していないが、四メートル未満の間口距離の場合には、土地の形状、土地の奥行距離、隣地の利用状況等により、個別性が強くなると考えられ、一律に計数化することが妥当でないことから、各個別的事情に応じた評価の妥当を期したものであって、課税実務上、本件土地のように建物の新築ができない場合には、土地の形状に起因した利用価値の低減であるから、不整形地補正の範囲内で、不整形地補正率に反映させるとともに建物の新築ができないの場合の斟酌として不足土地に相当する評価額を控除することとしているのであり、間口狭小補正率に接道義務を充足しない場合の規定がないからといって合理性を欠くことにはならない。

(二) 不整形地補正

(1) 不整形地は、画地の全部が宅地としての機能を十分に発揮できず、その利用価値が整形地に比して低くなることから、標準的な整形地としての価額である路線価を不整形の程度に応じて補正した上で、その価額を評価することになる。その際、<1>その不整形の程度、<2>位置、<3>地積の大小に応じ、不整形地を三の類型に分類して合理的と認められる評価方法を示し、その近傍の宅地との均衡を考慮して、一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除して補正を行うこととしている。

そして、一〇〇分の三〇の範囲内において行う斟酌については、課税実務上、不整形地評価の公平・簡便化の観点から、不整形地の評価上勘案すべき各要素を盛り込んだ補正率を設け、これを評価通達二〇項(1)のイからハまでに掲げる価額に乗じて不整形地の価額を算定することができることとされている。

右のとおり、不整形地補正に関する定めはいずれも合理性を有している。

(2) また、土地の相続税評価にあたり、平成四年分の土地の評価から、地価公示価格と同水準の価格の八〇パーセントを目途に評価することにより、その適正化・均衡化が図られたことは、周知のとおりであるところ、国土庁の比準表の個別要因比準表によれば、画地条件である不整形地の最大格差を〇・七〇と定めていることからしても、評価通達が不整形地補正を一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除して行うと定めたことが合理性を欠くとはいえない。

(三) 原告らが公平性を欠くとして引用する評価通達は、評価すべき土地の上に地役権が存する場合に、地役権設定に当たり補償金を受領し、その部分の権利を移転しているために貸宅地等と同様であると認められることから、家屋に対する建築制限の内容により、土地の評価上控除すべき割合を定めたものであるのに対し、間口狭小補正は、間口の広狭による利用効率の低下を補正するものであって、建物の新築の可否によって計数が定められたものではないから、地役権が設定されている土地の評価と土地の形状等により利用が制限されている場合とを同様に取り扱うことはできず、間口狭小補正の規定だけをとらえて、不均衡、不公平であるとする原告らの主張は失当である。

(四) 以上のとおり、評価通達の定める間口狭小補正及び不整形地補正は、その趣旨に照らして合理性を有しており、また、路線価の設定に当たっては、売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基として毎年改定され、時価を上回ることのないよう配慮されていることからしても、常に時価を超えた違法な評価が出現するという原告らの主張は誤りである。

2 本件情報の合理性

(一) 評価通達は、不整形地について一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除して補正を行うこととしているが、これは、評価の対象となる不整形地の形状が多種多様であり、一律にその経済的価値の減少割合を見積もることが困難であることから、個々の不整形地についてその価値の減少していると認められる範囲内で補正を行うこととしているものである。しかしながら、右のとおり具体的な基準が定められていなかったことから、課税実務上は、経験則に従い個別的に不整形地補正率を決定していた側面があったため、課税の公平・簡素化の観点から、従前の経験則を集約した上、不整形地の評価上勘案すべき不整形の程度、位置及び地積の大小の各要素を盛りこんだ、補正率を求める指針として本件情報を公表し、不整形地補正率の算定を画一的に行うこととしたのであって、補正率の算出方法をいわば確認的に定型化したものにすぎない。本件情報を適用し、不整形地補正率を決定することは、むしろ恣意性を排除し、画一的に評価することによって課税の公平を確保できることとなる。

したがって、被告が、本件情報によって蔭地割合方式を強制することは恣意的かつ不合理な評価であるから不当であるとの原告らの主張は失当である。

(二) なお、本件情報における不整形地補正率として考慮されることとなるのは、あくまで蔭地割合のいかんという不整形地の形状の斟酌だけであって、右不整形地の間口の状況は斟酌されていないから、間口狭小補正率の適用がある場合には、不整形地補正率を算定するに当たり、間口狭小補正率を斟酌するものとして扱っている。

右評価方法は合理的であるとともに、評価通達における「不整形」が、間口狭小をも含む広い概念であることからすれば、右のような評価方法は、評価通達と矛盾して許されないというものではない。

3 建物の新築ができない土地の評価方法について

(一) 建物の新築ができない土地の評価方法について、被告は、前記のとおり、不整形地補正の範囲内において、建物の新築が法令上できない場合の斟酌として、無道路地の評価(評価通達二〇項(2))における実務上の取扱いに準じて、不足土地に相当する評価額を相続税路線価によって算出し、これを控除する方法を採っているが、右法方は、不動産鑑定の実務における方法に照らしても合理的であり、右評価方法によって算定した本件相続土地の価格は時価として合理的なものである。

(二)(1) 本件土地が建築安全条例三条の接道義務を充足しないため、本件土地上に建物の新築ができないことは、直接その土地に付された法令上の建築制限ではなく、評価すべき土地の形状に起因して発生したものであって、接道義務を充足した場合には、解消され得るものであるから、原告らが引用した区分地上権に準ずる地役権の目的となっている土地や、都市計画道路予定地等の法令上の建築制限のある土地とは、制限の内容が異なるものであり、不整形地補正の規定により考慮され得るものである。

したがって、評価通達が、法令の規定によって建物の新築ができないという行政的条件についても不整形地補正でその斟酌を行うこととし、間口距離及び路地状部分の長さを考慮しながら、無道路地の評価に準じて、不足土地に相当する評価額を控除することとしていることは、合理的であるとともに、課税の公平を確保するために画一的な評価方法として、妥当である。

(2) 鑑定評価実務においては、取付道路の開設に要する土地の取得の可否及び取得費用を勘案して補正をすることによって、無道路地の評価を行うのが一般的であるが、この方法は不足土地の評価額を控除するものにほかならず、本件土地についてもこれと同様の考え方によったものであるから、本件土地のように建物の新築ができない土地の価額の評価方法として、不足土地の取得を想定して評価することも、合理性を有するというべきである。

(三) 財産の価額は、相続税法二二条において、相続財産の取得の時における時価(客観的交換価値)とされているところ、不足土地の金額を路線価評価によって算定しているのは、右評価に基づく価格が客観的交換価値であるからであって、相手側の事情によって価額が左右することは、買い進み等が含まれていることにほかならず、客観的交換価値を現わしていることにはならない。

また、そもそも買い進み価格をいかにして算定するかは不明であるし、不足土地の価格を買い進み価格により評価して控除すべきとの考え方が、鑑定評価実務上確立しているとはいえない、

4 本件相続土地の評価が時価を超えていないこと

(一) 間口狭小補正及び不整形地補正の規定の合理性については、前記のとおりであり、建物の新築ができないことについては、不整形地補正の範囲内において前記のとおり合理的に斟酌しており、その他評価通達に、土地評価の方法として不合理な点もないから、被告主張の評価額が時価を超えることはない。

(二) 本件鑑定評価について

原告らは、本件鑑定評価によれば、本件土地の時価は、二億九四〇〇万円であることを基に、本件相続土地の時価が、二億六四六〇万円であると主張するが、次のとおり、本件鑑定評価の土地評価は妥当性を欠いている。

(1) 本件鑑定評価においては、鑑定評価額の決定に際して取引事例比較法を適用しているが、本件鑑定評価においては、取引当事者の属性が分析されていないため、実需要を反映した事例を選択したか否かが不明であり、また、取引事例地の形状等が不明であるため、価格形成要因の比較をする際の格差率が妥当であるか否かが分からないことからすれば、取引事例地が適正なものであるかどうかの検討すらできない。

(2) また、本件鑑定評価における「別表1・比準価格評定表(土地)」のうち、事例No.2及びNo.3の取引事例地については、価格形成要因の比較の際に、標準化補正のその他の欄において、「地積(総額)少」として一〇ポイントの格差を減算しているが、地積が過少の場合には、標準的な地積の土地に比して、利用効率が低下することは明らかなのである(国土庁の比準表によれば、一〇ポイント程度の格差である。)から、標準的な画地に補正する場合には、格差率は、事例No.2及びNo.3とも一〇ポイントの格差を加算することが正しく、減算して比較したことは誤りである。

(3) 社団法人東京都宅地建物取引業協会が発行した平成五年三月一日現在の東京都地価図によれば、本件土地が面する路線に接する土地の地価が、一平方メートル当たり一七五万円(一坪当たり五八〇万円)であるから、本件鑑定評価における時点修正率〇・九六で割り戻した価格は一八二万円となり、また、評価基準に定められた路線価は、地価公示価格等の八〇パーセント程度を目途として付設されていることから、平成五年一月一日現在の本件路線価一三二万円を〇・八で割り戻した金額である一六五万円が、地価公示価格等の価格であると認められ、右時点修正率〇・九六を乗じた価格は一五八万円となる、右の各価格が本件相続開始時点の価格であることからすれば、本件鑑定評価で平成五年二月二日現在の一平方メートル当たりの標準画地の更地価格として評定された一四五万円は、妥当な価格とはいえない。

(4) 国土庁の比準表によれば、地積が過大であるため、画地利用上の阻害の程度が相当に大きい場合は最高一〇パーセントを減価していることからすれば、本件鑑定評価において、標準画地に比しての対象地の個別的要因として、地積大による減価率を二〇パーセントとしていることは、妥当ではない。

また、容積率を生かして中高層建物を建築した場合の方が、最有効利用できる割合が高くなると考えられ、本件土地の近隣地域における実際の利用状況も、中高層建物の敷地として有効利用されていることからすれば、本件土地の個別的要因として、本件土地の地積が過大であることを、本件鑑定評価のように大きく見積もることは相当でない。

(5) さらに、本件鑑定評価によれば、評価額の試算において、建物の新築ができないことによる減価を四〇パーセントとしているが、右の減価を四〇パーセントとすることには合理的理由はなく、過大な減額というべきである。

(6)ア 本件鑑定評価によれば、試算価格の検証において、本件土地と同様の路地状部分を有する標準的な袋地状敷地(二〇〇平方メートル)を想定した上で、路地状部分の減価を八〇パーセント、有効宅地部分の減価を二〇パーセント、本件土地の面積のうち、標準的な袋地状敷地の面積を超える広大地の部分(四〇〇平方メートル)の減価を五〇パーセントとしている。

しかし、国土庁の比準表によれば、路地状部分の減価率は三〇ないし五〇パーセント、有効宅地部分の減価率は、路地状部分の奥行きが一〇メートル以上二〇メートル未満の場合は最高一五パーセントとされているから、右試算価格の検証結果は相当でない。

イ 本件鑑定評価は、本件土地の存する近隣地域内に標準的な袋地状敷地二〇〇平方メートルを設定して試算価格の検証を行っている。

しかし、本件土地の存する近隣地域は、比較的大規模な画地が一括して利用されていると認められるとともに、接道義務が満たされれば、容積率をいかして中高層建物を建築する場合も考えられるのであるから、一般戸建て住宅のみを基準として試算価格を検証するのではなく、本件土地を一括利用した場合の検証も行うべきである。

ウ また、本件鑑定評価は、不動産業者の立場に立って事業実施による利益の算定を行っているが、買主が最終取得者であった場合には、右のような利益の算定を行う必要はなく、右利益を考慮しないとした場合には、鑑定評価額が増加することからして、右試算価格の検証は妥当でない。

(7) 本件鑑定評価は、不動産鑑定士の資格を有する森田義男により行われたものであるところ、同人は、税理士資格を有し、本件鑑定評価前に、本件相続に係る申告書を作成していたものであり、その後、更正の請求、異議申立て、審査請求における本件相続人らの代理人でもあったものであるから、依頼人である訴外西方幸子と森田義男不動産鑑定士との間には、特別な利害関係がないとは到底いえるものではなく、本件鑑定評価が、中立・更正に行われたかは甚だ疑わしい。

5 以上によれば、本件相続土地の時価は、四億九八六七万八六二二円であるところ、右を基に本件相続に係る課税価格及び納付すべき相続税の額を算定すると、原告宮代侑子の課税価格は七一三五万六〇〇〇円、納付すべき相続税の額は一六七八万四四〇〇円、同祝玖美子の課税価格は七一八四万七〇〇〇円、納付すべき相続税の額、一六八九万九八〇〇円、同西片三栄子の課税価格は九一三九万二〇〇〇円、納付すべき相続税の額は、二一四九万七二〇〇円、同西片眞吾の課税価格は二六一〇万四〇〇〇円、納付すべき相続税の額は六一四万〇一〇〇円となり、本件各通知処分に係る原告ら各人の課税価格及び納付すべき相続税の額はいずれも右金額と同額であるから本件各通知処分は適法である。

五  争点

本件の争点は、本件相続土地の価額の点のみであり(その他の相続財産の範囲、その価額及び納付すべき税額の算出方法については、当事者間には争いがない。)、具体的には、次の各点である。

<1>  被告の行った評価通達、本件情報等に基づく評価方法は、本件相続土地の客観的時価の算定方法として不合理であるか否か。 (争点1)

<2>  評価通達、本件情報等に基づいて算出した被告による本件相続土地の評価額が客観的時価を超えるか否か。 (争点2)

第三当裁判所の判断

一1  国税通則法二三条一項に基づく更正の請求は、納税者の提出した納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合等に、納税者が、税務署長に対し、当該申告書に係る国税の法定申告期限から一年以内に限ってすることができる申立てであるところ、申告納税方式による国税に係る税額は、その後に更正がされない限り納税者の納税申告のとおり確定するものであること、納税申告の前提となった事実関係及びそれを誤りであるとする事実関係は更正の請求をする納税者が熟知していること等に照らせば、更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求める訴訟においては、更正の請求に係る事実関係は納税者たる原告らにおいて主張、立証すべきであると解するのが相当である。

2  本件においては、申告書記載の本件相続土地の価額(ただし、本件においては、その後、減額更正処分がされていることから、右更正処分後の価額である。)が、本件相続土地の客観的時価を超えることを原告らにおいて立証すべきところ、原告らは、被告が評価通達、本件情報等に基づいて評価した本件相続土地の客観的時価について、右の本件相続土地の客観的時価の評価方法には合理性がなく、被告による評価額は客観的時価を超えていると主張するので、以下、被告主張の評価方法の合理性の有無を検討し、次に、被告による本件相続土地の評価額が客観的時価を超えているか否かを検討することとする。

二  争点1について

1  評価通達の合理性

(一) 間口狭小補正の規定の合理性の有無

(1) 画地の価値は、通風、採光、出入の便などによって左右されるが、それは、画地が街路に接する部分、すなわち間口の広狭に影響される度合が大きく、間口が狭小な宅地等は、その利用効率が低下することから、これらの画地の評価に当たっては、通常規模の間口を有する画地を基として付されている路線価から利用効率の低下の程度に応じた減額を行う必要がある。

そして、一画地の地積が小規模である繁華街や普通住宅地区等においては、ビル街地区や大工場地区に比べると、間口の狭小による利用効率の低下は比較的少ないなど、地区区分によってその影響の程度は異なるものと考えられる。

(2) 評価通達二〇項(3)が、間口狭小補正を行うべきことを定め、評価通達付表四が、右の補正率を、地区区分ごとに、間口距離に応じて定め、普通住宅地区の補正率については、繁華街地区や普通商業・併用住宅地区に比べて低く、ビル街地区、高度商業地区等に比べて高く定めているのは、課税の公平・簡素化の観点から、右のような間口の狭小による利用効率の低下を画地の評価の上に定率化して反映させたものであって、これらの規定に特に不合理な点は認められない。

(3) 原告らは、間口四メートル未満の土地を一律に評価していること、及び一割の評価減しか行われないことから、右の規定は不合理であると主張する。

しかし、間口四メートル未満の土地については、土地の地積、形状、奥行距離等によって間口の狭小であることによる利用効率の低下の程度が相当に異なり、一定の基準を設けることが困難であること、法令上、接道義務を充足しないためにそのままでは建物の新築ができないことによる土地の評価の低下は、本件相続土地については、不足土地に相当する評価額の当該土地の評価からの控除によって別途に斟酌されていることからすれば、間口四メートル未満の土地を一律に評価することとする間口狭小補正の規定によって本件相続土地を評価したとしても、不合理であるとは解されない。また、右のように接道義務を充足しないためにそのままでは建物の新築ができないことによる土地の評価の低下は、本件相続土地については、別途に斟酌されていることも勘案すれば、間口の狭小による宅地の利用効率の低下割合が、右規定の定める低下割合を超えるものであることを認めるに足る確たる証拠もない本件においては、間口の狭小による評価減が一割にとどまることが不合理であるとも認め難い。

(4) なお、原告らは区分地上権に準ずる地役権が設定されている場合の承役地についての評価通達の定め(評価通達二五項(4))と不均衡を生じているとして、評価通達の定める右規定は不合理であると主張するが、地役権が設定されている場合の承役地は、地役権設定を行ったことによって既に権利の一部が移転し、貸宅地などと同様であることから、家屋に対する建築制限の内容によって、土地の評価上控除すべき割合を定めたものであるのに対し、間口狭小補正は、土地の形状の一つとして間口が狭小であることに基づく利用効率の低下割合を評価するものであり、また、本件相続土地については、接道義務に反するために建物の新築ができないことによる減価は、不足土地の取得費を控除することによって評価しているのであるから、間口狭小による補正だけを取り上げ、これと地役権が設定されている土地の評価の方法とを比較して、公平性を欠いているとするのは相当ではない。

(二) 不整形地補正の規定の合理性の有無

(1) 不整形地は、画地の全部が宅地としての機能を十分に発揮できないため、整形地に比してその利用価値が低くなることから、不整形地の価額の評価に当たっては、標準的な整形地としての価額である路線価に不整形の程度に応じた補正を行う必要がある。

(2) 評価通達二〇項(1)は、右のような観点から、不整形地補正を行うべきことを定め、不整形地を、<1>その不整形の程度、<2>位置、<3>地積の大小に応じて、三の類型に分類して合理的と認められる評価方法を示し(同項(1)イないしハ)、その近傍の宅地との均衡を考慮して、一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除して補正を行うこととしているものであり、右規定に特に不合理な点は認められない。

(3) 原告らは、右評価通達が不整形地の場合の補正の範囲を一〇〇分の三〇の範囲内に限定したことは合理性を欠くと主張する。

しかし、証拠(乙三の一、同三の二)によれば、国土利用計画法の適正な施行を図るため、不動産鑑定評価基準の理論を基礎に、不動産鑑定士等の鑑定評価の専門家の参画を得てその実践面における成果も採り入れて作成された国土庁の比準表においては、不整形地補正の最大格差は〇・七〇とされており、右の格差率等については不動産鑑定士等による全国的な実地検証の結果を経ていることが認められることに照らせば、評価通達が、不整形地補正を一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除して行うとしていることが合理性を欠いているとは認め難い。

これに対し、原告らは、右比準表は不動産評価の素人による評価の手法である評価通達を参考にして作られたものと考えられ、また、国土利用計画法においては、土地の価格をより高めに評価すべき事情が存すると主張して、右比準表にも合理性が存しないと主張するが、原告らの右主張を裏付けるに足る証拠はない。

(三) そして、そのほか、評価通達において、土地の価額を算定する基準として、不合理な点は、特段、認められないことからすれば、評価通達は本件相続土地の価額の算定方法としての合理性を有しているものというべきである。

2  本件情報の合理性

(一) 本件情報は、評価通達においては、不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、近似整形地等の価額からその不整形地の価額の一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認められる金額を控除して補正を行うとの取扱いとされているものの、具体的な基準が定められていなかったため、課税実務上は、ある程度、経験に従って行わざるを得ない側面があったことから、課税の公平・簡素化のためにとりまとめられたものであり、評価対象地の画地全域を囲む、正面路線に面するく形又は正方形の土地の地積を算出し、想定整形地の地積と評価対象地の地積の差が想定整形地の地積に占める割合(蔭地割合)を算出し、これを評価の対象となる不整形地の地区及び地積に応じた不整形地補正率表にあてはめて、不整形地補正率を算出するものである。

そして、間口狭小補正率の適用がある場合には、蔭地割合方式で算出した不整形地補正率に間口狭小補正率を乗じた数値が評価対象地の不整形地補正率とされている。

また、本件土地のような鑑定評価上の袋地については、不整形地補正率を適用して評価する方法と間口狭小補正率と奥行長大補正率を適用して評価する方法が選択できる等の留意事項が定められている(乙二)。

(二) 右のとおり、本件情報の定める不整形地の評価方法は、不整形地の評価上勘案すべき不整形の程度、地積の大小の各要素を主に、一部位置による修正も織り込んだものということができ、不整形地評価の公平・簡素化という目的に照らしても、特に不合理と認められる点は存しない。

(三) 原告らは、例示された事例とその不整形地補正の割合をみると、極端に小さな減額しか行われないこと、数値の決定要素が蔭地の面積割合のみであり、蔭地部分がその土地全体のどの部位に位置しているかが全く考慮されないから、適正な評価が行い得ないと主張するが、例示された事例について付されている不整形地補正の割合が極端に小さなものであると断ずることは困難であり、蔭地部分の位置が減価割合に与える影響を類型化することが容易であるとも認められないから、本件情報が、これらの点において、不合理であるとは解されない。

3  建物の新築ができない土地についての評価の合理性の有無

(一) 被告は、本件土地が建築安全条例三条の定める接道義務を充足していないために建物の新築ができないことについては、不整形地補正の範囲内において、接道義務を充足するために必要な土地(不足土地)に相当する価額を控除することによって評価することとし、右不足土地の価額を本件土地が面する路線に付設された平成五年分の正面路線価の価額に不足土地の地積を乗じて算出している。

そこで、接道義務を充足していないために建物の新築ができない土地の価額の評価方法として、被告の行った右評価方法が、合理性を有するか否かを検討する。

(二) 本件土地のように道路に路地状部分で接道し建築安全条例上の接道義務を充足していない土地の評価方法については、他の同種の土地の売買実例と比較してその価額を算定する方法、その近傍の整形地との格差を経験的に修得した達観的な数値で修正する方法、費用性の観点から接道義務を充足するために必要な隣地(不足土地)の買収を想定する方法等が考えられるところである。

このうち不足土地の買収を想定する方法については、実際上は、現在の利用状況などから隣地に不足土地を供出する余裕がない場合もあり、常にすべての場合に不足土地の買収が可能なわけではなく、当該土地及び不足土地等の状況に照らして、被告の採用した前記の評価方法を採ることが相当でない場合も存在することは否定できないし、隣地所有者が不足土地のみの部分的な買収の申込みについて、必ず客観的な時価によってこれに応ずるともいい難く、当該土地の事情によっては、不足土地の買収価格を単に路線価によって評価し、これを控除する方法によることは、接道義務を充足していない土地の客観的時価を評価する方法として合理性を欠く場合もあるものといわなければならない。

しかし、本件についてみれば、不足土地の購入を想定することが社会通念上不可能な場合を想定しているとは解されないこと(本件鑑定評価に係る鑑定書(甲一一)には、本件土地の所有者が、右不足土地の買い取りを打診したが、いい回答は得られなかったとの記載があるが、どのような条件提示がされたか等が明らかではなく、これをもって、不足土地の買い取りが社会通念上不可能であるとはいえない。)、不足土地の面積は、一五・三平方メートル(〇・九メートル×一七メートル)であるのに対して、本件土地の面積は六〇三・五〇平方メートルと、極めて大きな差があり、相続税の路線価が、評価の安全性の観点から、地価公示価格と同水準の価格の八割を目途に低目に評定されていること、平成五年一月一日から本件相続開始日までの時点修正率が〇・九六であり(甲一一)、建物の新築ができないことについての減価以外の被告の評価方法に不合理なところがないことをも考慮すれば、被告が本件相続土地について前記の算定方法を用いることが、右評価誤差の許容範囲を超えて不合理であるとは認められない。

(三) 原告らは、評価時点では、不足土地に関してその所有者から右評価額で購入することが確定しておらず、また、現実には買うことのできる確率が極めて低いのであるから、不整形地補正の最高限度である三割の減価をすべきであると主張するが、減価割合を三割とすべき具体的根拠は明らかでなく、当該土地に対する不足土地の割合が三パーセントに満たないような場合においては、三割もの減価割合を適用すると、不足土地の買収価格を極端に高額に想定した場合と同様の結果となるが、このような結果は実情にも合致しないというべきであるから、原告らの主張は採用できない。

4  以上によれば、被告が本件相続土地の客観的時価を算定するに当たって用いた各方法が不合理であるということはできない。

三  争点2について

1  前記のとおり、被告主張の方法は、本件相続土地の客観的時価を算定する方法として特に不合理であるとはいえないから、これによって算定した本件相続土地の価額(四億九八六七万八六二二円)は、本件相続土地の客観的時価であると一応認めることができるところ、本件鑑定評価は、本件土地の時価を二億九四〇〇万円であるとしており、右によれば、本件相続土地の時価は二億六四六〇万円となる。

2  証拠(甲二の一ないし四、同四の一ないし四、同五の一ないし四、同一一、乙八)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件相続人の一人である訴外西片幸子は、税理士森田義男の著作をきっかけとして、同税理士に対し、本件相続に係る相続税申告を依頼することとした。

同税理士は、本件相続土地の時価を調査したところ、評価通達に基づく評価額が相続税法の定める時価を大幅に上回っていると判断したが、過少申告加算税や延滞税を賦課されるリスクを回避するため、訴外西片幸子と相談の上、当初は評価通達に従った申告をした上で、その後、更正の請求をすることとした。

そして、同税理士は、右更正の請求のほか、異議申立て及び審査請求においても、本件相続人らの代理人として行動した。

(二) 本件鑑定評価は、平成六年六月一五日、相続税の更正の請求に当たり、相続財産を時価評価するとの目的で、不動産鑑定士の資格も有する右森田義男によって行われたものであり、本件土地を対象地とし、本件相続発生時である平成五年二月二日を鑑定評価の価格時点として、右土地の更地としての正常価格を鑑定したものである。

(三) 本件鑑定評価の概要は次のとおりである。

(1) 本件鑑定評価は、取引事例比較法を採用し、収益還元法については、対象地が建物の新築ができない土地であることを理由に採用しなかった。

(2) 本件鑑定評価は、まず、近隣地域内に標準画地を設定してこの価格を求め、次に、標準画地と本件土地との間で価格形成に作用する個別的要因を比較して、本件土地の更地価格を求めることとした。

そして、標準画地の価格を算定するため、近隣地域及び類似地域内に存すると判断した平成四年五月から同年八月までの取引事例三例を抽出した。しかし、本件鑑定評価に係る鑑定書中には、右三例のそれぞれの具体的場所の特定まではされておらず、また、各取引事例に係る土地の具体的状況が明らかにされていないから、各土地が整形地であるのか、間口がどの程度であるのか等は明らかではない。

(3) 次いで、右各取引事例について、時点修正、事情補正、標準画地との間での価格形成要因の比較を行い、求めた価格の中値により、標準画地の比準価格を一平方メートル当たり一四六万円とした。

また、地価公示価格を規準として、同様に時点修正、事情補正、標準画地との間での価格形成要因の比較を行い、標準画地の価格を一平方メートル当たり一四四万円とした。

そこで、右各算定結果から、標準画地の更地価格を一平方メートル当たり一四五万円とした。

(4) さらに、本件土地の個別的要因として、公道から幅員約二・一メートル、長さ約一七メートルの専用通路を経由して有効宅地部分に接続する袋地状敷地であり、土地の形状が劣ること、一般的な袋地状敷地に比べ、有効宅地部分の面積が約五七〇平方メートルと広いこと、また、現状では、建物を新築することができないことがあげられるとして、右の各要因に係る減価補正として、それぞれマイナス三〇パーセント、マイナス二〇パーセント、マイナス四〇パーセントが相当であると判断した。

(5) そして、これらを基として、最終的に、本件土地の評価額を二億九四〇〇万円であると試算している。

なお、本件鑑定評価は、さらに、右試算価格の検証を行っているが、一部に想定を含んでおり、あくまで検証の域を出ないものであると付記されている。

3(一)  右を前提として本件鑑定評価について検討するに、取引事例比較法によって鑑定評価を行う場合には、同一需給圏内の類似地域等に存する不動産に係る取引事例を選択すること、取引等の事情が正常なものであること、地域要因の比較や個別的要因の比較が適正に行われることが必要であるというべきところ、本件においては、各取引事例に係る土地の所在が具体的に明らかにされていないばかりか、その形状についても不明であり、取引等の事情に関しても、特段、言及されていないことから、右の各点については不明であるといわざるを得ない。

(二)  また、本件鑑定評価によれば、評価額の試算において、標準画地に比しての対象地の個別的要因として、地積大による二〇パーセントの減価を行っているが、国土庁の比準表によれば、地積大による減価は最大でも一〇パーセントとされており、これよりさらに一〇パーセントの減価をすることが合理的であるという証拠は存しない。

(三)  さらに、本件鑑定評価は、建物の新築ができないことによる減価を四〇パーセントとするが、本件土地は、接道義務を充足しないことから、そのままでは、建物の新築ができないものの、不足土地は、本件土地の面積に比して、三パーセントに満たない程度であり、不足土地を買い足すなどの方法によって接道義務を充足させ、本件土地を有効利用するという方法を採ることが社会通念上不可能であるとの事情も認められないことからすれば、本件土地全体に対して四〇パーセントの減価を行うことは過大な減価であるというべきである。

(四)  以上の各点と、本件鑑定評価を行った森田義男は、本件相続に係る申告書を作成し、更正の請求、異議申立て、審査請求においても本件相続人らの代理人でもあった者であることを考えると、本件鑑定評価による鑑定評価額が本件土地の時価を適正に評価したものであるとは認め難い。

4  したがって、被告による本件相続土地の評価額(四億九八六七万八六二二円)が本件鑑定評価を基に算定した価額二億六四六〇万円を上回ることから、被告による右の評価が客観的時価を超えていると認めることは困難というべきである。

四  以上によれば、本件各通知処分に違法があるとは認められないから、原告らの本件請求は理由がない。

よって、原告らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

別紙一

本件課税処分等の経緯

<省略>

別紙二

本件課税処分等の経緯

<省略>

別紙三

本件課税処分等の経緯

<省略>

別紙四

本件課税処分等の経緯

<省略>

別表1

課税価格等の計算明細表

<省略>

別表2

税額算出表

<省略>

別表3-1

土地の明細

<省略>

別表3-2

本件宅地の評価明細表

<省略>

別表4

有価証券の価額の明細表

<省略>

別表5

現金、預貯金等の明細表

<省略>

別表6

その他の財産の価額の明細表

<省略>

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